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植物のアレロパシー・・・自らを守るために植物は悲壮な知恵を使っていますが・・・
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    4. 植物のアレロパシー 藤井義晴 農林水産省農業環境技術研究所 植物のアレ目パシーは,一般的には「植物が放出する 化学物質が,他の生物に阻害的,あるいは促進的な何ら かの作用を及ぼす現象」を意味する.このような現象は 古くから観察されていたと思われるが,アレロバシーと いう言葉を最初に定義したのはMolisch(1)で,ギリシャ 語のαλληλων(お互いの)とπαθοζ(あるものの身に ふりかかるもの)を合成してAllelopathieという言葉を 作った.その対象は微生物を含む植物であった. わが国には,沼田(2)によって紹介され「他感作用」と 訳された.沼田らは,植生遷移におけるアレロパシーの 役割を研究し,アレロパシーを一般に広めた. アレロパシーの概念は,Molischによる定義以後,縮 小解釈されたり,拡大解釈されて変遷してきた.現在で はその概念が次第に拡大する傾向にある(表1).自然界 では阻害現象が顕著であるが,促進作用や共生現象に化 学物質が関与している場合もある.これらも広義のアレ ロバシーである.本シリーズは植物の生体防御がテーマ なので,阻害的関係に絞り,特に植物対植物と植物対昆 表1 ■アレロパシー(他感作用)の概念 これまでは,(2)の定義で阻害作用のみが研究されることが多か ったが,次第に(1)のもとのMolischの定義で用いられるよう になった.最近では,(3)の定義で用いられており,将来(4)へ拡 大される傾向にある. 表2 ■アレロパシーの作用経路 Tukey(3)より.Putnam(32)は,(3)の内容をさらに分類して, (a)落葉から物質が浸出される場合,(b)落葉や腐葉が分解して他 感物質に変化する場合,(c)残根やちぎれた根が分解する場合, に分けている. 虫に関する知見を紹介する. ところで,アレロパシーの作用経路は,どのような現 象をアレロパシーと呼ぶかという点で,定義に深く関わ る.Tukey(3)によって提唱され,一般的に受け入れられ ている作用経路を表2に示した.葉からのリーチングや 根からの惨出は間作・混植や雑草抑制作用に,揮発性物 質の放出は昆虫や微生物の誘引・忌避に,植物体残渣の 作用は植生遷移,連・輪作,マルチ(土壌表面を覆うこ とによって水分の蒸発を抑え,地温を維持し,雑草の発 生を抑制する技術)などの農業技術と関係している. 本稿では,まずアレロパシーの検出・証明法について 紹介し,次にアレロパシーの関与が示唆され,物質レベ ルで解明が進んでいる例をとりあげ,作用についても若 干考察した後,問題点や今後の展望についてふれる. アレロパシーの検出・識別・証明法 アレロパシーによる相互作用を示唆する現象は数多く 報告されているが,現実には化学物質以外の要素による 相互作用と識別することが困難な場合が多く,完全にア レロパシーを証明した例は少ない.以下に,植物間のア レロパシーの識別法について紹介する. 1. アレロパシーと識別すべき現象 アレロパシーの発見は自然現象の観察に始まるが,特 471 定の植物の近くに他の植物が生えにくい現象や純群落を つくる現象,特定の虫や病気に強い植物などから示唆さ れる.しかし,このような現象は化学物質以外の要因に よることも多い.特に,植物間のアレロパシーにおいて 問題となるのは,光,水,栄養素などの競合による相互 作用である.ある植物が周囲の他の植物に何らかの影響 を及ぼす作用を干渉(interference)といい(5〜7),その中 に,(1)競争(competition):栄養素,水分,光の競合に よる相互作用,(2)アレロパシー(allelopathy):化学物 質を介した相互作用,および(3)間接的干渉作用:物理的 あるいは生物的干渉作用,が含まれる. 2. アレロパシーの識別法 これまでに行なわれてきた根や葉や残渣から放出され る物質による作用の識別法を,表3にまとめた.この中 で,連続的根ー出液捕集法(CRETS)はアレロパシー研 究でよく用いられている.この装置はTangら(8)によっ て考案され,根から出る物質の捕集・同定に用いられる とともに,候補植物から放出される物質を吸着剤に吸着 させながら循環砂耕栽培し,相手植物と混植することに よって,アレロパシーを識別している. これまでに,この方法を用いてウシノシッペイ(Hemarthria altissima)から3-hydroxyhydrocinnamic acidなどのフェノール性物質が,パパイヤ(Carica papaya)からbenzyl isothiocyanateが放出されること が報告されている.また,グアバやBidens pilosaのア レロパシーが示唆されている.水谷ら(9)は,同様の装置 表3 ■アレロパシーの識別手法 を用い,キレハイヌガラシ(Rorippa silvestris)から hirsutinを同定している. 植物の根からも,多種多様な物質の放出されることが 知られている(35)が,その働きがすべて解明されたとはい えず,生物間情報交信に関与している可能性は高い. 3. アレロパシーを証明するための条件 栽培試験などでアレロパシーの関与が示唆され,作用 物質の推定もされているような場合でも,別の研究者な どによってアレロパシーの関与が疑問を持たれたり,否 定されている例がある.Riceが書いたアレロパシーの 総説(5)にとりあげられた例に対して,生態学者のHarper( 7)は疑問点を指摘している.アレロパシーと識別し にくいものとして,上記の光や水や養分の競合以外に, 生物的要因や物理的要因が考えられる.そこで,アレロ パシーを識別するための条件を表4にまとめた. 植物対植物のアレロパシーが示唆される事例 アレロパシーの示唆されている植物のすべてを網羅す ることは困難なので,特に(1)現象が明確でアレロパシー の可能性が高い場合,あるいは興味深い現象の場合,(2) 必ずしもアレロパシーの関与の証明が十分ではないが農 業への利用渉期待できる場合,(3)アレロパシー研究に新 たな示唆を与える研究,(4)候補物質の活性が強く,たと え現象面で証明されていなくても新しい生理活性物質と しての利用が期待される場合,について,ごく一部を紹 表4 ■アレロパシーの証明条件 Harper(7)と平野(8)の提案を参考にした. 472 化学と生物 Vol.28, No.7 介する. 1. クログルミ クログルミ(Juglans nigra)の下には草が生えにくい ことはよく知られている.この現象は,クルミの樹皮や 果実に1, 4, 5-trihydroxynaphthaleneの配糖体が含まれ ており,これが加水分解後,酸化されてjuglone(18) を生成するためであるとされている(10).作用本体の jugloneはナフトキノンであり,5×10-4Mの濃度でト ウモロコシの根の呼吸を完全に阻害する.このように体 内では無毒な形態で存在しており,土壌に添加された 後,変化をうけて毒性の強い物質に変化してアレロパシ ーを現わす仕組みは巧妙である. 2. サルビア Mullerらは,サルビア(Salvia spp.)属の灌木の周 囲には生育阻止帯ができ,次第に草原を蚕食してゆくと いうサルビア現象に注目した.そして,この原因がサル ビアの葉から放出されるテルペン類によることを報告し ている(5).また,放出された物質が周辺の土壌中にも存 在すること,この土壌から抽出した物質が芽生えの生育 を阻害することも確認している.しかし,その後サルビ ア現象は,齧歯類の動物や鳥による食害で説明できると いう反論も出されている(11).動物による食害を受けない ように,網でサルビア周辺の裸地を覆ったところ草が生 えたという. 3. セイタカアワダチソウ セイタカアワダチソウ(Solidago altissima)はアレロ パシーを持つ植物としてよく知られている.作用物質と して,cis-dehydromatricaria ester (23)が報告され(12), 根の乾物中に約2.5%も存在すること,土壌中にも5 ppm程度存在しており,他植物に影響を及ぼし得るレ ベルであると報告されている(2,13).ところが,一時大繁 茂したセイタカアワダチソウも近年次第に衰退し,スス キやクズの植生に遷移しているといわれている.植生遷 移とアレロパシーの観点から興味深い. 4. 野生ヒマワリ 野生ヒマワリ(Helianthus scaberimus)の自生地で は,中心部が次第にまばらで草丈が低くなり,周辺部が 環状に生育する現象が見られ,これをfairy ring(妖精 の環)という(14).その原因物質は,セスキテルペンの heliangine(6)であるとされている.しかし,妖精の 環は小さな竜巻で説明できるという説もある. 5. アジャップ 大東,小清水ら(15)は,西アフリカ熱帯多雨林に自生す るアカテツ科の樹木アジャップ(Baillonella toxisperma) のアレロパシーを研究し,その作用物質として新 規生理活性物質3-hydroxyuridine (19),およびそのア グリコン3-hydraxyuracilを同定している.もとの物質 は水溶性が高く,地上部から溶脱して土壌に入り,そこ で安定なアグリコンとなって作用を示すと考えられてい る.核酸関連物質が同定された例は珍しい. 6. コーヒー コーヒー(Coffea arabica)(アカネ科)のプランテー ションでは,リター(植物体の残渣)から年間1〜2g/ m2のcaffeine (20)が土壌に負荷され,10年間で 100〜200ppmの濃度に達するとされている.caffeine には選択毒性があり,マメ科植物の発芽・生育を阻害し ないが,マメ科以外の植物(ハリビユ,カラスムギ,イ ヌビエ)の発芽を顕著に阻害するという(14). 7. ナギ 春日大社のナギの純林は有名であるが,一般にマキ科 植物(Podocarpus)は独立した林を形成しやすい.その 因子として,nagilactone (7)が報告されている(14). 8. クレオソート・ブッシュ ハマビシ科の常緑低木であるクレオソート・ブッシュ (Larrea tridentata)は,天然の抗酸化剤であるNDGA (nordihydroguaiaretic acid; 16)を含む植物として知 られていた.この木の下土は撥水性があり,雑草が生え ないことが知られていたが,その原因物質もNDGAで あると報告されている(16).この物質は乾燥葉の5〜10% も含まれている.10〜20ppmでレタスやアルファルフ ァの幼根伸長を50%阻害するが,下胚軸伸長阻害は小 さく,発芽は阻害しない.エノコログサに対する阻害作 用は小さい. 473 9. ギンネム 熱帯から亜熱帯にかけて世界的に広く分布するギンネ ム(Leucena leucocephala)は,未利用バイオマス資源 として世界最大級であるという.ギンネムは樹下に他の 植物が見られない特異な群落を形成することが知られて いたが,ギンネム葉中に1〜4%含まれるmimosine (13)が強い生育阻害作用を持ち,土壌中で分解されてさ らに活性が強いDHP (3-dihydroxy-4(1H) pyridone) となリアレロパシーを現わすと推定されている(17). 10. ムクナ マメ科植物ムクナ(ハッショウマメ)(Mucuna prurience) はブラジル,東南アジア,アフリカで,主に緑 肥として栽培されている作物である.この植物はブラジ ルの圃場で雑草の生育を抑制するという観察があった. ムクナの植物体中には生体重の1〜2%0に達するL-3, 4-dihydroxyphenylalanine (L-DOPA; 14)が含まれ ており,これが作用物質の一つと考えられた(18).LDOPA は,レタスやオランダミミナグサなどの根の伸 長を50ppmで50%阻害するが,メヒシバやエノコロ グサなどに対しては阻害作用が小さい.下胚軸伸長阻害 は小さく,発芽は阻害しない.L-DOPAはNDGAと 構造,活性,作用が類似している.ムクナとトウモロコ シやサトウキビなどのイネ科作物との混植はブラジルな どで行なわれているが,化学物質の寄与が明らかにされ れば興味深い. 11. 制圧作物 雑草の生育を妨げる作用のある作物を,制圧作物 (smother crop)と呼ぶ(19).その例として,オオムギ, ライムギ,エンバク,ソルガム,ソバ,スーダングラ ス,キビ,アワ,クローバ類,ルーピン,ダイズ,アル ファルファ,アサ,レープ,ヒマワリ,キクイモなどが 報告されている.制圧作物は主として競合によって雑草 の生育を阻害すると考えられているが,その中にはアレ ロパシーによる作用も含まれる可能性があるといわれて いる. たとえば,エンバクの作用成分はクマリン類のscopoletin( 3),オオムギの制圧作用の本体はアルカロイ ドのgramineであるとされている.gramineはハコベ (Stellaria spp.)に対して阻害作用が強く,10ppm.(約 6×10-5mol/l)で生育を約80%阻害するが,ナズナや タバコに対しては阻害作用が弱く,コムギにはまったく 影響しない. 12. 雑草のアレロパシー 雑草の中には,アレロパシー作用で作物や他の雑草を 抑制する可能性があるとの報告がたくさんあるが,作用 物質が同定されたものは少なく,アレロパシーが証明さ れた事例はさらに少ない.これまでの報告から(20),アレ ロパシー関与の可能性が高いものとして,セイタカアワ ダチソウとその関連のキク科雑草,メヒシバ,ハマスゲ (cyperoneやβ-selineneなどのセスキテルペン),セリ 科雑草(umbelliferone; 4),ヤエムグラ(asperuloside など),ミズガヤツリ(β-selinene, farnesolなどのセス キテルペン),オオツメクサ(caffeic acid; 17),チドメ グサ,ヒガンバナ,クズ,エゴマ(perilla ketone),ス ズメノチャヒキ,カラスムギ,チガヤ(フェノール性物 質),ミチヤナギ(脂肪酸類),シロザ,オオケタデ,ホ ナガイヌビユ(amasterol),クロガラシ,キレハイヌガ ラシ,アマナズナなどのアブラナ科植物(イソチオシア ネート類)などがある. 13. 草地のアレロパシー 草地では,飼料作物の他にも種々の雑草が繁茂するた め植生が豊富であり,優占種の移り変わりにおいてアレ ロパシーが占める役割は大きいとされている(21,22).これ までに,トールフェスク,アルファルファ,クローバ 類,チモシー,ハルガヤ(coumarin; 1),ペレニアル ライグラスなどにアレロパシーが示唆されている. 14. 野菜・果樹のアレロバシー 野菜栽培においては,連作障害とアレロパシーが問題 になることが多い.連作障害の原因の80%は病虫害で あるとされているが,説明のつかない現象の中にアレロ パシーが関与している場合があるといわれている.アレ ロパシーの関与が示唆されているものに,アスパラガス (フェノール性酸,asparagusic acid),スイカ(salicylic acid),トマト(フェノール性酸),ナス,キュウリ,エ ンドウ,サトイモなどがある(23). 果樹は永年生植物であるため,リターや残根由来の毒 物質の蓄積が問題となり,忌地現象や植え換え時の幼植 474 化学と生物 Vol.28, No.7 物の生育障害に関与するとされている.平野の総説(8)に 詳しく紹介されているが,よく知られた例として,クル ミのjuglone (18),モモのamiygdalin,リンゴのphlorizin, quercetin, catechin,イチジクのpsoralene (5) などがある. 15. 薬草のアレロパシー 薬用植物は病気治療の目的でスクリーニングされた植 物群であるが,それ以外にも生理活性を持っていると推 定される.アレロパシー候補植物の検索を目的に,手近 な植物体抽出液の発芽・生育阻害活性を調べた結果,検 出された植物は,クズ,ヨウシュヤマゴボウ,ドクダミ など薬用植物として知られたものが多かった.そこで, 薬草を対象に,植物と土壌伝染性病原菌に対する阻害活 性を指標に検索した結果,高い頻度で活性の強いものが 検出された.中でも,キンポウゲ科のオキナグサとセン ニンソウは,植物生育阻害,土壌病原性カビ類(フザリ ウム)の阻害ともに最も強力であった.その活性成分は protoanemonin (10)であった(24). このように,従来何らかの生理活性が報告されている 物質について,別の生物に対する作用,別の生化学反応 への作用などを調べてみることで,新たな生理活性が見 つかる可能性がある.L-DOPA, caffeine, NDGA, mimosineなどはこのような物質である. 16. 揮発性物質によるアレロパシー 揮発性物質による植物間の情報交換に関する報告があ る.ポプラの葉を引き裂くと,別の鉢の無傷のポプラの 植物体内で,フェノール性物質やタンニン類の含有量が 増加したという(25).揮発性物質が植物間の情報伝達に関 与していることを実証した報告はほとんどないが,示唆 する現象はいくつかあり(26),Molisch(1)が揮発性物質で 植物ホルモンでもあるエチレンの研究からアレロパシー の定義を考案した経緯もあるので,揮発性物質の情報伝 達物質の解明は,将来興味ある分野となるかもしれない. 17. 水生植物のアレロパシー カヤツリグサ科植物の,水域におけるアレロパシーが 研究され,生長阻害物質として,dihydraactinidiolide (11),脂肪酸誘導体,prostaglandin様物質が見いださ れている(36). 18. 寄生植物の発芽促進物質 ゴマノハグサ科の寄生植物Striga asiaticaは,トウ モロコシなどの根に寄生するが,その種子は土壌中で長 年休眠しており,根から放出されるstrigol(8)によっ て発芽が促進される.この物質は宿主と寄生体の相互を 認識する情報伝達物質であるらしい(36). 植物のアレロパシー物質が昆虫に対する防御物質 となっている場合 植物の微生物に対する作用については,ファイトアレ キシンの回(6月号)と重複すると思われるので,ここ では昆虫に対する防御物質の数例を紹介する(27〜29). 1. 古くから知られている植物と物質 タバコのnicotine,デリス根のrotenone,除虫菊の pyrethrin,カラバル豆のeserineは,古くから知られて いる殺虫成分であり,特にpyrethrinとeserineは現在 も用いられている殺虫剤のリード化合物となった.これ らは神経毒として作用すると考えられている.また,ニ ンニクに含まれるallicin,ワサビやカラシなどのアブラ ナ科植物に含まれるisothiocyanateも,よく利用され てきた生理活性物質である. 2. ニーム(neem)(29) センダン科の樹木ニーム(Azadiractia indica)は, 昆虫の摂食・生長阻害物質を含むことから,亜熱帯地域 で経験的に用いられてきた.その活性成分として,azadirachtin などが見いだされているが,きわめて活性が 強く,かつ人に無害なため有望とされている. 3. タイヌビエのトビイロウンカ抵抗性物質 トビイロウンカはイネの害虫であるが,同じイネ科の タイヌビエはこの虫による被害がない.タイヌビエから 摂食阻害物質が探索され,trans-aconitic acidが同定さ れた.この物質は広く生物界に存在しているが,イネに は存在しない.traps-aconitic acidはcis-aconitic acid の代謝を乱す可能性がある. 4. ナタマメの耐虫性(29) ナタマメは虫害を受けにくい.それは抵抗性物質とし て,アルギニン類縁体であるカナバニンを多量に含むた 475 1. coumarin 2. esculetin 3. scopoletin4. umbelliferone 5. psoralen6. heliangine7. nagilactone A8. strigol 9. patulin10. protoanemanin11. dihydroactinidiolide12. tulipalin 図1 ■α, β-不飽和ラクトンを含むアレロパシー候補物質 化合物名の前の数字は本文中で()内に示した.なお,本文中には出てこないが,tulipalinはチューリップに含まれる抗菌性成分 である. 13. mimasine 14. L-DOPA 15. catechol 16. NDGA 17. caffeic acid 18. juglone 19. 3-hydroxyuridine 20. caffeine 21. α-terthienyl 22. cicutoxin 23. cis-dehydromatricaria ester 図2 ■酸化還元反応,光増感反応に関与している可能性のあるアレロパシー候補物質 化合物名の前の数字は本文中で()内に示した.なお,cicutoxinは本文には出てこないが,ドクゼリの成分である. 476 化学と生物 Vol.28, No.7 め,昆虫の代謝系を乱すためであろうとされている. 5. 耐虫性ダイズ(27) 九州農試において,耐虫性ダイズ,「ヒメシラズ」,「操 田大豆」が研究され,その放射線照射ミュータントも作 製され,耐虫性の増加が認められている.これらの耐虫 性機構として,葉の物理的抵抗性の他に,誘引・忌避物 質の存在が調べられている. 6. ムクナの耐虫性(28) ムクナも害虫密度を減少させるといわれている.その 作用物質は,葉や種子に多量に含まれるL-DOPAであ り,即効性の殺虫効果はないが,サナギを変形させる. L-DOPAがチロシナーゼを阻害した結果,クチクラ合 成が阻害され,サナギの殻が硬化せず,害虫密度を減少 させると推定されている.現在,昆虫の神経系に作用す る農薬(アセチルコリンエステラーゼ阻害剤など)が主 に用いられているが,人にもある程度作用する欠点があ った.昆虫に特異的なクチクラ合成阻害剤は,即効性は 期待できないが人に対する害作用の少ない害虫防除剤と なるかもしれない. 7. 線虫抵抗性植物(27) 連作に伴う線虫害が問題となっている.そこで,線虫 抵抗性植物,あるいは殺線虫植物が研究され,すでにマ リーゴールド,タヌキマメが実用化され,ギニアグラス も有望とされている.殺線虫物質として,マリーゴール ドではα-terthienylが,タヌキマメではpyrrolizidine alkaloidが報告されている. 8. ポリヒドロキシアルカロイド(29) ドクニンジンのdeoxymannojirimycin,クワ科植物や 微生物に含まれるdeoxynojirimycin (=moranoline), ソバに含まれるfagomineなどのポリヒドロキシアルカ ロイドは,各種の糖のアナログとして昆虫や哺乳類や微 生物のグリコシダーゼを阻害し,これらを蓄積する植物 は昆虫などに対する防御物質として用いているといわれ ている.類縁物質はマメ科やタデ科などにも存在する. 9. ユーカリ由来の蚊の忌避物質(19) ユーカリの葉に含まれる,p-menthane-3, 8-diolが, 蚊やマツノザイセンチュウに対して強い忌避作用を持つ ことが最近,西村らによって見いだされ,実用化が期待 されている. 10. クラウンベッチ(29) クラウンベッチ(Coronilla varia)はマメ科の飼料作 物であり,高タンパク含量のため反舞動物には良い飼料 となるが,豚や鶏には有毒とされている.この有毒成 分,3-nitropropionic acidは昆虫に対しても有毒で,忌 避物質として働くという. アレロパシー物質の性質と作用機構 Rice(6)が整理したアレロパシー物質の作用機構とし て,(1)細胞分裂,生長に作用,(2)植物ホルモンの作用に 影響,(3)膜の透過性に影響,(4)養分吸収に関与,(5)光合 成に影響,呼吸やエネルギー代謝に影響,(7)一次代謝産 物の合成に影響,(8)特定の酵素の阻害,を挙げている, 結局,すべての生化学反応に関わっているのであろう. アレロパシー候補物質は,OH基,C=O基,あるいは S→O基を持ち,分子内に酸素原子を多く含むものと, 励起されやすい二重結合や三重結合を持つものが多いよ うに思われ る.た とえぽ,図1の グル ープは α,β -不飽 和ラクトンを持っており,強力なMichael反応の受容 体であることから,SH基と反応することが推察され る.図2のグループは,キノンであったり,キノンにな りやすい物質であったり,励起されやすいπ電子系を持 ち,酸化還元反応や光増感反応に関与していると推察さ れる.しかし,このような作用が個体としての生育にど のように関わっているかは不明である.また,アルカロ イドなどに見られる種による感受性の大きな違いも興味 ある現象である. 植物のアレロパシー研究における問題点 1. アレロパシー物質の相乗効果 フェノール性物質は生態系の中には広く存在している が,土壌中の存在量は植物生育に影響を与えるには低す ぎることなどからアレロパシーの本体といえるかどうか 疑問視する研究者もいる.そこで,単独では効果が小さ くても,混合されると相乗効果を起こしてアレロパシー を発現するという説が,Blumら(1985)によって提唱 されている.たとえば,ferulic acidとp-coumaric 477 acidの組み合わせではキュウリの水分利用量を相乗的 に低下させたと報告している(36).この説は魅力的ではあ るが,活性が飛躍的に高まるような例があまり報告され ていないことから,さらに検討を要する.しかし,昆虫 フェロモンの研究で明らかにされているように,単独で は効果のない物質が混合物で作用を現わす場合があり, 植物間作用でも複合作用が働いている可能性は十分考え られる. 2. 土壌成分と土壌微生物の寄与 植物から放出される物質が土壌中で他の生物に影響す るとき,土壌成分と土壌微生物の関与は大きい(4).しか し,この分野の研究は少ない, 土壌は一種の吸着剤であり,粘土鉱物と腐植などの有 機物が重要な因子である.また同時に,バイオリアクタ ーでもあり,特に鉄やマンガソなどの金属元素が重要で ある.たとえば,caffeic acidは土壌中のFe (III)や Mn (III,IV)により速やかに酸化されることが知られて いる(37). また,土壌微生物の作用として,コムギワラに生育す るPenicillium urticaeが,コムギ残渣を分解して,強 い抗菌物質であると同時に植物生育阻害物質であるpatulin (9)を生成するため,刈株マルチやConservation tillageにおいて,コムギの生育が著しく悪くなることが 明らかにされている(27). 植物体に含まれる植物生育阻害物質の研究は数多く行 なわれているが,実際にアレロパシー物質として作用し ていることを完壁に証明した研究は少ない.アレロバシ ーは漠然としており,まだ研究分野として整理され,確 立されていないともいえる. その理由として,自然生態系におけるアレロパシーの 観点からの観察が少ないこと,土壌の関与があること, が考えられる.植物の生育を阻害する物質の研究は農芸 化学者によって行なわれ,生態系における生物問相互作 用の研究は生物学者によって行なわれ,土壌の研究はま た別の分野であるが,これらの共同研究が今後ますます 必要となろう.また,言い伝えや農家の知恵に学び,自 然に学ぶことが重要であろう. このような生物間の分子言語による相互作用の研究が 盛んになり,統一的理論が解明され,生態系内でのヒト をふくめた生物の,安定で永続的な生存に役立つ研究に つながることが期待される. 文献 1) H. 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